前回お話したように、自己治癒力は人間誰もが持っている偉大な力です。
そしてがん治療においても、見落としてはいけない大切な力です。
がん治療の効果は一般的に、人それぞれです。
同じくらい進行した患者さんたちに同じ治療をしても、良く効く方もいれば、かえって状態が悪化してしまう方もいます。
こうした状況を繰り返し経験しながら、治療効果の差には自己治癒力が関わっていることを明らかにした方がいます。
アメリカの放射線科医であり、心理社会腫瘍学の権威であるカール・サイモントン博士です。
サイモントン博士は、がん患者さんへの心のケアの重要性を説き、自己治癒力を高めるために私たちができる取り組みを明らかにしました。
それは、「自分自身により多くの喜びや幸福感をもたらすこと」です。
世間や他人のためではなく、自分にとっての幸福を追求することで、“誰かのため”に傾いていた「軸」を自分に戻してあげることができます。
自分自身の幸せを大切にして、本来の自分を取り戻すことで自己治癒力は高まるのです。
「なんだ、ただの精神論か」と思われるかもしれません。
しかし人間は幸福や喜びがもたらされることにより、体内で様々な化学物質が生成され、免疫力が強化されることが証明されています。
自分の幸せを追求することは「自分のしたいことをする、勝手わがままなこと」では決してありません。
したいことをして自分に喜びをもたらすことは、自己治癒力を高めるという治療の一つなんです。
「これは治療だから、体にいいんだよ」と自分に言い聞かせて、やりたいことをどんどん楽しんでやっちゃってください。
特別な技術や訓練は必要ありません。
ただ自分が幸せと感じれば、それでいいんです。
病院で受けるものだけが治療ではありません。
自己治癒力を高めるための取り組みとして、幸せを感じるものを大切にして、守ってあげてください。
―追記―
症状が悪ければ悪いほど、自分の幸せについて考えることは難しくなります。
自分が持っているものよりも、失ったものに意識が向いてしまいます。
そんな時に「幸せを追求しよう」といっても、幸せを見つけることは難しいでしょう。
しかし、本来「幸せ」というものは誰かから与えられるものではなく、もともと全ての人が自分の中に持っているものです。
無理に前向きになって、幸せを探す必要はありません。
気づくときが来れば、ちゃんと自分の持っている幸せに気づくことができます。
長い目で、今を生きてください。
何一つとして、無駄なことや意味のないことなどありません。
今ある苦しみは、やがて必ず気づくことになる自分の中の幸せが癒してくれますから。
幸せに気づくことができる日を信頼して待つ。
そして見つかった幸せを守るための医療を提供する。
私が目指す、患者さんの自己治癒力を高める医療とは、このように実践されると思っています。
より多くの方が、自分の幸せを大切に思っていただけるように、自己治癒力という観点からお話させていただきました。
最後までお読みいただきありがとうございました。